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こっちのけんとさん 「人それぞれ それもいいね」

 「はいよろこんで」でおなじみの、こっちのけんとさん。Eテレ「The Wakey Show~ザ・ウェイキー・ショウ」(平日朝7時から)で流れる曲「それもいいね」を新たに作りました。けんとさんが大切にしている「豊かな言葉の使い方」とは? 小学生のみんなに伝えたい思いとは? けんとさんの〝分身〟「コッチモフレンズ」とともに、「こども新聞なつ号」紙面で書き切れなかったエピソードをまじえ、お届けします。

◆小学校での思い出は?

 こっちのけんとさん 好きな給食は・・・・・・揚げパンでした。牛乳も好き。ストローで飲むパック牛乳、美味しいですよね。給食だからこそ、の体験です。

 サッカーを習っていて、ディフェンス(守り)担当でした。チームが強く、試合中も暇で、その場でくるくる回って踊っていたらしくて。その姿を見た両親の勧めもあり、小4からダンスをはじめました。地元の発表会に出たり、小学校の出し物でダンスの振り付けをしたり――。周りでダンスを習っている男の子が少なく、「特別」に思えて、自信につながりました。

 また、バスケットボール部に入っていました。放課後は、上手な同級生と一緒にプレーした記憶があります。(体が)ちっちゃかったから、ちょこまか動けて楽しかったです。

 一方で、基本は家の中で過ごすのが好きな静かな子でした。自分の好きなもの――特に友達とゲームして遊ぶ時などに、声を荒げてテンション高くなるタイプでした。父が出張で家にいない時、父の部屋に入り浸ってパソコンをする――。その時間が幸せでしたね。

 ただ、兄(俳優・菅田将暉さん)はゲームに詳しい僕をほめてくれ、母も寄り添って認めてくれました。

◆小学生のころから振り付けをするなんて、すごいですね。

 こっちのけんとさん それがきっかけで、創作する――何かを「作る」「考える」ことが好きになった気がします。

 大学生の時には、アカペラサークルに入っていました。全員で歌う時のちょっとした身振り手振りも考えていました。そんなふうに、ダンスと関わることは続いていて、それが(昨年発表、大ヒットした曲)「はいよろこんで」にも生きていると思います。

◆ダンスの振り付けは、どうやってひらめくんですか。

 こっちのけんとさん なんとなく、かもしれないな・・・・・・。例えば、「夢を見て」という歌詞の時には眠るポーズを一個だけ取り入れます。あとは歌詞通りではなく、リズムに合わせて動きます。

 眠るポーズから動ける方法は何があるんだろう。手を逆に動かすのか、手のひらだけをずらすのか、みたいに動きを一個一個試すんです。

 「はいよろこんで」の振り付けも、汗を拭うポーズから入って、「こういう動きがしたい」と派生していきました。

◆「はいよろこんで」は小学生にも大人気ですね。

 こっちのけんとさん うれしいです。少しずつ、子どもたちにも知ってもらえるようになって。最初は、ここまで子どもたちに親しんでもらえるとは予想していませんでした。でも、分かりやすい曲にはしたいと思って作りました。

 「反抗期の子どもにお願い事をしたら、『はいよろこんで』と言われました」と聞きました。最近も、友人が旅行先のカンボジアで小学校に行ったら、小学生が「はいよろこんで」を踊ってくれたみたいです。

◆朝の子ども向け番組(Eテレ「The Wakey Show~ザ・ウェイキー・ショウ」)で流れる曲「それもいいね」について教えて下さい。

 こっちのけんとさん 「こっちのけんと」としては、「はいよろこんで」や「死ぬな!」のように、重いテーマだけれど、アップテンポ(リズムが速い)で明るい音楽を生み出してきました。そして、そういう音楽を歌うことが求められていると思っています。

 でも、本当は「きれいな」曲を作りたい・歌いたい気持ちがあるんです。ただ「こっちのけんと」が歌うとちょっと皮肉に感じちゃうかな、と思っていたところ、このお話(「The Wakey Show~ザ・ウェイキー・ショウ」のキャラクターが歌う曲を制作する)をいただきました。番組は、「嫌なことが存在しない世界」と聞きました。そんな番組であれば、僕の心の中にあるきれいな部分をそのまま出せるんじゃないかと思い、ワクワクしながら曲を作りましたね。

 子ども向けの番組で、キャラクターたちが歌う曲なので、「きれいな」言葉を使いました。楽しかったですね。(けんとさんが歌う曲は)「きれいな」曲を書いた後に、ちょっと(言葉などの)「トゲ」を増やしていく作り方をするんですけど、トゲをなくした状態で「完成」となりました。「それもいいね」という単語が出てきてからは(完成まで)早かった気がします。

◆「それもいいね」では、「誰もが人それぞれ」と伝えています。

 こっちのけんとさん 子どもたちの心の中に、「お互いを認め合うことは大切」という気持ちはあるんじゃないかな。それを言葉として出せたらいいなと思い、「それもいいね」という言葉に重きを置いて曲を作りました。(そんなきれいなメッセージを)キャラクターが伝えるところに意味があるなと思っています。

 朝、学校へ行く準備をしているときにこの曲を聞き、「それもいいね」という言葉が頭の中に残りながら子どもたちが登校してくれたら、前向きになれるのではないかと思いました。友達や自分の特徴(個性)をポジティブに捉えたコミュニケーションが生まれるといいな、と思って作りましたね。

◆応援している感じ、でしょうか。

 こっちのけんとさん 僕が応援する、というより、この曲を聞いた子が他の子を応援する気持ちになれば、優しさが広がりますよね。

◆優しい曲ですね。「それもいいね」という言葉は、どんなときにひらめいたのですか。

 こっちのけんとさん 歌手になる前に、番組を撮影・編集する仕事をしていました。その時(取材で)出会った社長さんが、「『それもあり』という言葉を大切にしている」と教えてくれました。僕は、「いいな」と思う言葉を日々メモしています。「それもあり」もメモに残しました。それを今回、引っ張り出してきた感じですね。

 ただ、「それもあり」は、社長さんが、部下の方に言っている言葉で、大人から子どもに言っている感じがあるなと思って。そうではなく、できるだけ「平等」な言葉にしたくて「それもいいね」にしました。

 また、「それ『が』いいね」だと、自分の意見を消して他人を優先しているように聞こえます。だから、自分も他人も救える感じがする「それ『も』いいね」という言葉を選びました。

 僕は、自分を消して他人を優先しちゃう癖があるんです。まだ考え方の癖がないであろう子どもたちには、この「それもいいね」の気持ちを持って生きて欲しいなと思っています。

◆発信するときには、言葉の選び方に細やかに気をつけていらっしゃるんですね。

 こっちのけんとさん (歌詞でも、普段の言葉使いでも)選ぶ単語はすごく大切にしています。

 例えば、「バズる」「ばえる」という言葉を使いたくなくて。悪い言葉ではないと思うから、聞く分にはいいんです。でも、僕が言葉を使うときは「もっと別の、豊かな言い方があるかな」という視点は大切にしています。

 感動する映画を見た後に「エモかった」で終わらせたら、もったいなすぎるというか。食べ物をかまずに飲み込んでいる感じというか。消化しづらくなって自分の栄養になってない感覚がします。だから、気持ちを言葉でちゃんと表現することを大切にしていますね。

◆小さいころから言葉は大切にされていたんですか。

 こっちのけんとさん そうですね。現代文や漢文、古文の筆者が考えていることについて想像することはすごい好きでした。深く考えすぎちゃって、国語の「勉強」は苦手だったかな・・・・・・。

◆そういうふうに思いをめぐらせられるから、さまざまな作品が生まれているのですね。「はいよろこんで」は、モールス信号(昔よく使われた通信手段。「トン」と「ツー」2つの音で交信する)も取り入れていますね。

 こっちのけんとさん 「心拍数が上がる」感じを出して、僕の双極性障害(テンションが上下する病気)も隠されたテーマとして伝えたかったのです。最初は、曲中に心臓の音や心拍数など「医学的な何か」を入れようと思いました。途中でテンポを上げることも考えたけれど、聞いていて穏やかではない。心電図の音も、怖いと思う人もいるかもしれない。

 いろいろ調べ、「心拍数」に似た音として、「モールス信号」に行き着きました。いろんなものを避けて蛇行運転を繰り返した結果、「トントントンツーツーツートントントン」(モールス信号の「SOS」の読み方)という歌詞になりました。言葉としては柔らかく聞こえるのもよいな、と思いました。

◆曲は、どこで考えるのですか?

 こっちのけんとさん 家の中・・・・・・自分の部屋やお風呂場で、が多いですね。

 自分の部屋にはベッドを置かないようにしています。寝転がって曲を作り出したら終わりかなと。寝るんだったら、寝室にあるベッドでちゃんと寝ようと思っています。自分の部屋には、背もたれが低くて、座ると集中できるイスを置いています。

◆名前(こっちのけんと)の由来は?

 こっちのけんとさん ちょっと背伸びして空回りしている自分を否定したくない。でも、切り離して考えたい――。そんな思いから、大学卒業後、(コンサルタントとして経営者に向き合いながら)会社員として働いていたころ、背伸びした自分を「あっちのけんと」と呼んでいました。家でゆっくりしている素の「こっちのけんと」と区別していたんです。(アーティストとして)人前に出ている自分に関しては、人に対面した時にも、「本音を話すぞ」という意味を込めて「こっちのけんと」としました。

 精神的に追い込まれて会社員をやめた後、父の誕生日パーティーでアカペラを歌うことになりました。頑張って会場に行って歌ったら、すごく楽しくて。「社会人になって、そういえば歌ってなかった」とそこでやっと気がつけたんです。「自分のためにも歌い続けることが大切だな」と思い、「歌ならできるかも」という希望が見えました。

◆小学生にメッセージをお願いします。

 こっちのけんとさん 人間は、4つくらいの顔(すみ分け)を持っていると思います。だから、イライラしちゃうときも、自慢しちゃうときもある。

 元気のない日に、元気を出すのも難しい。そんな日は諦めて、「元気な時」の自分に「任せちゃう」――。自分の「本当の気持ち」を確認して、問いかけながら、自分に優しくして欲しいです。

 そんな僕自身を支えてきた考え方を、目に見える形で伝えるキャラクター「コッチモフレンズ」が生まれました。ファンの人が僕の(写真の)アクリルスタンドを欲しい気持ちでいてくれるのは、わかってはいるんですけど、恥ずかしくて。キャラクターは〝分身〟――世界線が違う僕、みたいな感じです。

 「コッチモフレンズ」のコンセプトは、「みんな違って、みんないい」です。「それもいいね」にも通じる話ですが、自分(こっちのけんと)の言葉だけど、自分(こっちのけんと)から言わない方が説得力がある言葉もあると考えています。「僕がそれを言うとなんかちょっと違うなぁ」という言葉も、キャラクターを通じて伝えられる気がしています。

 僕も、この子たちと一緒に頑張ります。

 

コッチモフレンズ こっちのけんとさんをモデルにした「コッチモ」と友達で構成されるキャラクターです。心優しく多才なたぬき「コッチモ」、笑顔で明るいひつじ「アッチモ」、おっとりマイペースないぬ「ソッチモ」、しっかりもののチンチラ「ドッチモ」。イラストレーターのカナヘイさんが描きました。

こっちのけんとさん 「緑のマルチアーチスト」。楽曲・映像制作など幅広く活動。2024年5月にリリースした「はいよろこんで」はSNSを含む総再生回数が200億回を超えた。2025年4月配信の「けっかおーらい」は、TVアニメ「ヴィジランテ 僕のヒーローアカデミア ILLEGALS」オープニングテーマ曲。1996年6月生まれ、大阪府出身。